ふたり
そうですね
架空モロッコ旅行記
ついにこの日が来た。私のモロッコ一人旅が今ここに幕を挙げる。日々の喧噪から離れたこの地で神聖なものに触れたい、そう思いたったら次の瞬間にはもうこの地に足を降ろしていた。
私がモロッコを訪れるにあたって選んだ時期は4月。昼は暖かく夜は涼しいという、旅をするにはとっておきの季節だ。その前情報通り、今日は実に過ごしやすい気候だ。身にまとったユニクロのウルトラライトダウンの蛍光色と同じくらいに私の心は浮かれている。バックパックにたくさんの思い出をつめて帰りたい。
この旅の目的はとてもシンプルである。モロッコの神秘的な空気に触れたい。またモロッコの都市は路地が迷路のように入り組んでいる特徴を持っているらしいので、子供のころの冒険心を取り戻しながらその構造も楽しみたい。
まず一日目はマラケシュ観光。最初の目的地であるマラケシュのジャマ・エル・フナ広場に向かう。ここは「メディナのへそ」と呼ばれる場所である。ここで搾りたてのオレンジジュースを屋台で買う。ものすごく味が濃い。こんなに美味しいオレンジジュースは初めてだ。今まで自分の中に抱いていた砂漠やラクダといった乾いたモロッコのイメージからはかけ離れていた。
マラケシュの象徴であるクトゥビナの塔が堂々とそびえたつのが見える。高鳴る気持ちを止められない!心を落ち着かせつつバヒア宮殿を目指していく。旧市街から歩いて15分ほどで到着。入場料が10dhとお安い。中は中庭を取り囲んだ伝統的なイスラム建築で、精密な彫刻が美しい。国王が宿泊することもあるのには納得した。
そしてスークへと向かう。宮殿を離れるとどんどん道が細くなっていく。想像以上に幅が狭い!そして幾重にも道が分かれているため、自分がどこを歩いているのかも分からない。バブーシュやランプなどカラフルな商品が並ぶ道はさすがに人で込み合っているが、一本でも人気のない袋小路へと入ると辺りは静まりかえっている。市民たちが家の中を出入りしていた。
分かったこととして、スークでは男が主に商売をしており、女性は買い物にいそしんでいる。働く女性はほとんどいないし、買い物やモスクでの参拝以外の目的で外を出歩いている女性は少ないようだ。ここでは女性と男性の居るべき場所の区分が明確にされている。これはガイドブックで読んだ話だが、この狭く細い道の高さや狭さはイスラム教の教えに沿ってつくられているという。適当につくられたわけではなく、その都市構造は緻密に作られたものなのだ。
歩いているとモスク周辺には広場や水飲み場が設置されているのことが分かった。職人たちの働く音がそこらじゅうから聞こえ、独特な匂いがたちこめている。目的もなくブラブラすることで私はモロッコの迷宮の洗礼を受け、そしてこの街が人々にあたえる恩恵を感じた。暗くなってきたのでフナ広場へ移動し屋台でタジン料理を食す。たっぷりの香辛料と野菜が美味しかった。今日は見るものすべてに情報量が多く、また歩き回ったため目も脚もクタクタである。食事後すぐにホテルへと戻り就寝。明日は一日移動だ。
4月○日
今日は列車に乗りフェスを目指す日だ。寝起きに飲むオレンジジュースと朝食に出されたパンの美味しさに感動する。4月の朝はまだ少し冷えるため料理の暖かさにホッとした。
約7時間の列車の旅を経てフェスに到着したころにはもうあたりは暗い。予約していたリヤドへとタクシーで向かい。レストランで夕食。明日のスケジュールを考え早めに寝ることにした。
明日はいよいよこのたび一番の楽しみであるフェス観光だ。期待を胸に抱きながら就寝。
4月□日
起床し早速支度後メディナへのもっとも代表的な入口であるブー・ジュルード門へと向かう。
大きくアーチに施された美しい青の装飾は気分を高めてくれる。伝統色、フェズ・ブルーだ。
まずは街の中心部にある北アフリカ最大のモスク、カラウィン・モスクを目指していく。メインストリートはあまり広くはないが、メディナでは一番広い道だそうだ。通りは昼でも暗いく、細い路地に入りたくなる欲求にかられる。様々なものを売る市場を経て歩くこと15分、先にアッタリーン・マドラサに着く。神学校だ。中に入ると混み合っていたスークの道とは違い、ここはとても静かだ。壁や柱に精巧な細工や模様が施されている。イスラム建築を見るたびにその模様の美しさと、どれくらいの月日をかけて建築されたのかが気になる。屋上へ向かうとフェスの街を見渡せ、白や赤茶色の色をした家々がひしめきあっている。
私は今一人だが、多くの人々が確かに存在し、生活していることが感じ取られるこの町のおかげで、淋しさを感じることはない。ここでは狭い空間から解放されて一息つくことが出来た。
神学校を出て少し進むと旧市街の中心地にあるカラウィン・モスクに到着。イスラム教徒以外は立ち入ることができないため、周辺を散策する。門の中には噴水が見え、教徒たちが手や身体を洗っているのがみえた。カラウィン・モスクの裏側には金物市場が広がっていた。職人たちの作業の音がそこかしこから聞こえてくる。楽しいリズムを刻んでいるようにも聞こえる。モスクに着くまで最短の道を歩いてきたはずだったが、スークやらロバやらに関心を持っていたことでもう昼を過ぎてしまった。人通りに人が少なくなってきたのはそのせいだったのか。気になっていた邸宅を改装したレストランに入る。屋台に比べるとかなりの贅沢だが、旅には思い切りも必要だ。メディナの街は歩いても歩いても歩ききれないのだから、食べて体力をつける。中は豪華なタイル張りになっており、壁にかかった装飾品も豪華だ。ソファーに座り振る舞われたタジンやクスクスの料理はどれも美味で、最後に出されたミントティーを飲みながら、ついつい長居してしまった。
街を出てからはショッピングのためスークを歩き回る。バブーシュとオイルを買っていくと、友人たちに約束をしてしまっているからだ。フェスのスークが一番品数が多いらしい。色とりどりでユニークな形のランプにも目移りしながら、そしてつい買ってしまったお菓子をつまみながら(どれもものすごく甘い。モロッコの人々は甘党だ)、何件もの道を巡り、交渉の末一番大量に安く売ってくれる店があったのでそこでバブーシュを購入し、女性が多く集まっていた店でモロッコの美容オイルを購入した。ショッピングだけでも目が回るかと思った。
日もくれてきたため、リヤドへ帰り、中のレストランで食事をした後は寝ることにした。今日はもうクタクタだ。フェスのパワーに当てられたせいかもしれない。街全体が生き物みたいだと考えながら、気付くと眠りに落ちていた。
4月◆日
今日の前半はフェスの新市街を巡る。旧市街に比べて町並みは綺麗というか、ヤシの木が並んでいて近代的というか、お店もカフェや高級ブランド店が並んでいる。メディナからこちらへ移り住む人もいるんだろうか。若者も比較的多い。新市街を3キロほど歩くとメディナへと着く。しかし今日はメクネスへと向かう日だ。名残惜しい気もするが昼には列車に乗り、フェスとおさらばした。といってもフェスとメクネスは列車で30分と比較的近いのだが。また聞くところによるとメクネスのメディナはフェズと比べて歩きやすいらしい。モロッコに慣れてきたのもあり、もう不安はほとんどない。
駅から降りてまず向かうのはエディム広場だ。爽やかな青空が広がる。15分ほど新市街を歩くとメディナの入り口エルマンスール門へ着く。なんといってもこの門、めちゃくちゃに大きい。圧倒されながら中へと入っていく。メクネスはオリーブやブドウが美味しいらしく、エディナ広場に着いて早速その味を堪能した。広場には3つの噴水があり、屋台などが並ぶ。昼食はここで済ませた。スークの真ん中にはグラン・モスクがあり、ひときわ背の高いミナレットがそびえたっていた。そこからジャメイ博物館でモロッコの歴史に触れ、ヘリ・スアニという穀物倉庫や、美しい装飾のクミス門を見た。歩き疲れたらレストランへ入り、メクネス・ワインを嗜む。マラケシュ、フェズと目まぐるしく活動してきたが、旅も終盤を迎えつつあり、今日はのんびりとメクネスの街の雰囲気に身をまかせた。
私はこの4日でモロッコをすっかり気に入ってしまった。良い意味で人に構う余裕がないというか、皆それぞれが日々自分の役割についてやることを全うしている。変な確執など考えていない。その日を生きていると感じた。特にどこのメディナにも言えることとして、確かにテクノロジーの面では不便かもしれないが、工夫と協力でこれまでやってきたのだ。パワーというか、こういう生き方もあるのだなあと思った。
日本に戻ったら、たくさんの人にこの話をし、
文にしたためようと思う。
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ちゃらんぽらんだった君のほうが
問題のあるレストラン
- あたまが痛くて気持ち悪い